ひでちゃん&ひでたん、その弐

大概の人は、毛ほどの傷すら許すことの出来ない自分のカテゴリー つまりは“人それぞれの逆鱗”を持っている。温和な人間も、そこをくさした途端に、それだけは許さん!、と、怒りを顕にするのである。 僕は人より偏った場所に逆鱗があったようで、色んなところで周りの理解が及ばない怒りをぶちまけるワンダーボーイだった。僕の田舎でチャリンコを窃盗するインドネシア人が連日出没した時も、彼等にパスを出すように、家の前にルーズにチャリンコを放置する僕に「あれじゃあ、持っていけと言っているようなもんでしょ!」と、 母が至極正当な怒りを顕にしたが、 なんとなく自分の母親が心の貧しい人に思えてしまい、「俺が使うより、あいつ等が国に持って帰って、自国で売りさばかれて大切に扱ってもらったほうが、チャリンコにとっては幸せだろうが!!」と、母親が投げ掛ける全力の「はぁ!?」を尻目に 至極不正当に熱弁したこともある。 何処から受けた影響なのか、とにかく義理と人情という分野が 僕を
熱くして止まなかった。 少年時代の夏休み。終業式を終えた僕は、ナンバーワンビッグボーイこと最強の男ヒデチャンと夏休みに心エレクトさせ、学校から続く下り坂をワイワイ帰っているところだった。名前がヒデタカとヒデカズで似ていて分かりにくいという田舎ならではの小規模な理由から、ヒデタンとヒデチャンに区分けされた僕等は、なんか同じものを共有しているようで不思議な一体感があった。下り坂ももうすぐ平地へ差し掛かる頃、ビデチャンがふと 友人の陰口を叩いたのだと思う、何気ない会話の中に潜む何気ない悪態。少年ヒデタンの逆鱗、無駄な正義の心が時の声をあげた“いってまいります、お母さん。骨は庭先に埋めて下さい。”戦ってはいけない相手に喧嘩を売る自分、体の内側から危険を知らせる警報が聞こえる。「てめぇ、ふざけんなよ!」僕の口が 制止不能の勇気を振り絞った瞬間、「あぁ!お前、ちょっとこっちこいよ。」ヒデチャンが横手に見える駐車スペースを指差した。ついにヒデチャンがその気になってしまった。
無差別級もここまでくると戦わずともドクターストップがかかるはずだが、不運なことにそこにはドクターもタオルを投げてくれるセコンドも居なかった、ただ 周りにはあまりに滑稽な構図にかなりのギャラリーが集まってきていた。