ひでちゃん&ひでたん、その弌

小学五年生の頃。殺傷能力が低い拳で涙ながらにシバキ合い、鼻水飛び散らせてグズリ合い、結果、お互いを認め合い、友情を育んでいた、フィジカルコミニケーションの全盛期。 僕はその当時、143cm34kgと、ふ菓子で構成されたような恵まれない体格であり、祖父母から栄養失調を懸念され続けていたが、それでも、己のスレンダーな体のポテンシャルを信じ、最強を目指しては、戦いに明け暮れ、友情を築いては、その都度力強く握手を交わしたもんであった。クラス中の猛者とのハードな戦いを乗り越え続けた、傷だらけの小五の僕であったが、たった一人、僕の拳にパンチを繰り出させることなく、千切れんばかりに白旗を振り回させる猛者が居た。多くの小学校がそうであるように、うちの小学校にも自他共に認める最強の男が存在した。ヒデカズと言う名のその男、なんといっても、小五にして170cm120kg、我が町の歴史に名を残したであろうその体こそが、彼の問答無用の最強たる所以であった。 町を歩けば、相撲界入り
が囁かれるそのボディー、彼とは家がごく近所ということもあり、よく遊ぶ仲であったのだが、その別次元の腕力の前に、僕のふ菓子の体は怖じ気付き、戦おうとはせず、肉体的場面では、毎回スネオ化せざるおえなかった。今思うと、全てを笑ってごまかす、僕の非戦闘体質は、このころ培われたものなのだろう。動物として、本能的に生き残る道を選択していたわけである。最強を目指すにしても、ボクシング的にヘビー級とモスキート級では試合はしないということを知り、僕の戦闘民族としての幼い誇りは保たれていた。 小五の夏、ヒデカズとヒデタカ(僕)、二人の間には見えない非戦闘協定が結ばれていた。