とうちゃんの背中

kaijinsha2005-07-04


七月二日深夜、いつもと違うのは、僕のベット上でアパートの静寂を必死に打ち破ろうとしているうちのとうちゃんの姿があることであった、「うっ、うるさすぎる!」This is a世紀末級のイビキ、己がそこにいることをアピールする最上級の行為である、実家にいる頃からそのポテンシャルの高さには気付いていたのだが 久しぶりに至近距離で静聴してみると あの頃よりもはるかに多彩なバリエーションと老獪なテクニック、ボリュームこそレベル100から動いてはいないが、確実に眠りを妨げる殺傷能力が増していた、「がーっ、ごっ、がーっ、ごっ、・・」以前はこのようなテンポが続くリズミカルなイビキだっただけに、そのうち気にならなくなっていたものであるが、現在では、五十音をフル活用し「ガーッ、ごっ、ふぁーっ、はっぐ、ヴはぁー、にっ、ふっ、ふーっ」と、文字で正確に伝えられないのがもどかしい常に変化しつづけるトリッキーなスタイルに進化を遂げていた。 仕事の出張で出てきたらしく、突然泊りに来たわけだが、疲れ果てたであ
ろう父をいたわる僕の心も彼のボディーブローのようなイビキダメージの蓄積に音を上げる 意を決して枕元に立ち父の鼻をつまむところまで行ったのだが、 ふと 彼の背中が目についた とおちゃんは僕に背を向けて寝ていた、たまたまだろうが 「それはそれで気をつかってんだなぁ、」背中越しに聞こえるイビキに、なんか息子に気をつかってるように感じた “息子を思いやる背中”なんかそんな気がしたので、鼻をつまみにかかっていた右手はしまい、我慢して寝ることにした、眠れぬ深夜、 とうちゃんの背中について考えた 何だかんだじっくり眺めたのは今日が初めてな気がするのだが、父の背中を見て育った気はする、「ぐやぉー、ぐっ、ぐーっ」こっちの気持ちはお構いなく無尽蔵のスタミナを披露し続けるとうちゃん、なんかしらんが わらけてきた、もう一度とうちゃんの背中を眺めてみると、背中がイビキをかいてるように見えてくる。 さらに笑いが込み上げてきたところで、やっと眠りについた。