僕と屍とヘルメット

「ヘル中スタイル」

 田舎では、ヘルメットにチャリンコという、安全の上に安全を重ねたダサい格好の通学スタイルが蔓延している。
 僕もご多分に漏れず、中学時代はヘル中スタイルの達人として、毎日を過ごしていた。

 僕の町では何故か町からチャリンコが支給される。
 ヘル中スタイルに身を包んだ僕は、その安全性を過信するかのように、誰よりも早く、誰よりも先に、車よりも速く、全ての走る者に対して対抗意識を燃やしていた。

“いつか車を抜き去りたい”

 かつて多くのサッカー少年がそうであったように、僕もまた日向小次郎に憧れてサッカー部に所属していたクチである。
 ある日の部活帰り、チャリンコにまたがった僕は、いつものようにひたすらスピードを追求して完全にハイになっていた。

“俺が最速だ”

 足が回る。リズムがいい。この日の僕はすこぶる調子が良かった、下半身と上半身は見事なまでに連動し、チェーンと車輪の織りなす鼓動を心地よく感じていた。

“今日はいける!”

あの頃の僕は、自宅までの下校タイムを塗りかえることに青春を注ぎ込んでおり、この日は記録を塗り替える絶好の機会であった、とにかく全てが順調であった、少なくともあの時までは・・・
そのスピードは尻上がりに光に近づき、ついには自宅まで残り二カーブ、このカーブがくせ者で、最短距離をいかにスピードを殺さないで曲がれるか、 これにかかっていた。

 最短距離を攻める為縁石に乗り上げるギリギリを攻める僕、右手には閑散とした公園があるが、スタンデ
ィングオべーションが聞こえてきそうである。

「俺の勝ちだ、・・・・・・・・うは!!!!」

 たぶん “うは” って口走ってたんだと思う、 街灯の無い真っ暗なこうえんの入り口、学校によくある椅子に老人が座っていた。
風貌が屍である、暗闇を照らすチャリンコライトに突如浮かび上がる屍、絵図らのホラーテイストさにリズムを失った僕、チャリンコと僕のシンクロは解け、叫びながら縁石に躓き、 慣性の法則に従って記録的な転がりを見せた。
致命的な時間のロスである、もう新記録は無理であった、しかしながら、記録を諦めた僕の前には 以前として少年の若さ溢れるクラッシュに眉一つ動かさない老人の姿があった

“死んでる?”

本気で心配したが 目線を感じた、どうやら目が合ってるようなので 死んでないこと は分かる、にしても 何一つ語らずひたすらこっちを凝視してる老人にただならぬ恐怖を感じ、人に襲われたゴキブリのように擬音で言うところのカサカサ逃げ帰った、「・・・・」自宅までの100メートル程人間が一番恐いと誰かが言ってたことを思い出し深く共感した、家に着き、チャリンコを止め、ヘルメットを外した時 スタボロになっているヘルメットに気付いた。 “こいつが居なかったらあのじじいに殺されていたのかもしれない” 中学生活愛情を注いで 被り続けたヘルメット、 なんか久々に被りたくなった。